「新おすそわけ」

本波 隆(ほんなみ たかし)が、2013(平成25)年1月23日から、このページのため、新たに書いたコラムです。さて、いつまで続くか。。。。


No.36(307) 「ソバ」   2013(平成25)年2月27日
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 「ちょっと、待っとろ」。言われて、側で正座です。
 見ていたのは、家で収穫した、ソバの打ち延ばし。
 手でこねたソバを、丸い棒を使い、台の上でぐいぐいと。
 終わると、薄く延びたソバを、大きな包丁で、上から押し切り。
 手元を見てると、切ったソバは、細いのや太いのや、途中で切れているものなどバラバラ。
 それを、手づかみで、湯気が、モウモウと上がる大きな鍋へ。
 ゆで上がり、取り出したそばは、ちぎれて短くなってました。
 家で作って食べた、あのそばの味、正直、おいしかった記憶は、あまり。
 あの頃に比べると、今は、毎日がご馳走のようなもの。
 でも、最近、あの時のそばの味が、なんだか無性に懐かしく。
 出来るものなら、一度ぐらいは、心にもご馳走を。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、心は、充実感でいっぱいに。



No.35(306) 「草履」   2013(平成25)年2月26日
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 奥から、「忘れもん、ないがなら、出かけよ」の声。
 用事があり家族が出かける日。一緒に行きたかったのに、子どもはダメ、と留守番。
 見ると、一張羅の背広にネクタイ。そして、タンスの奥から取り出した着物に、ショール姿。
 玄関先には、ピカピカに磨いた革靴と、真新しい草履が準備。
 あれは、見るからに、お出かけのスタイル。
 外出の時は、きちんとしているのが当たり前。今のように、気軽な服装で、なんてことは。
 不思議なもので、服装がきちんとしてると、背筋までピシッ。
 それが、遊び着だと、姿勢がくずれて、締まりなく。着る物で、そんなに違うものかと。
 でも、時には、少し違った方がいいことだってあるようです。
 一度、違う自分に会ってみましょうか。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、心の中に、ピシッと、一本太い筋が。



No.34(305) 「鏡開き」   2013(平成25)年2月25日
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 初稽古で、久しぶりに道場へ。
 まず、普段着から、道着に着替え。今日は、めずらしく、汗の臭いがしない、洗濯の効いたものです。
 道場内では、足の裏から、床の冷たさが、直に頭へ伝わって。
 ざわざわしていたところに、大きな声で「せいれーつ」。
 出席者の顔ぶれを見ながら、所定の場所へ。
 背筋を伸ばし、正座です。急に静かになり、空気が、ピーンと張りつめたよう。
 挨拶が終わると、いよいよ初稽古。体を動かしていると、気持ちのいい汗が流れて来て。
 稽古の後は、鏡開きで、大きな鍋に、お汁粉が準備。
 お椀に、たっぷり入れてもらい、気のあった仲間と食べるお汁粉、それはおいしくて。
 初めて会った人とでも、仲良くやれること保証。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、心の中まで温かく、ポカポカと。



No.33(304) 「孫の手」   2013(平成25)年2月24日
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 「もうちょっとだけ、右の方」。
 考えながら、小さな手を、少し移動。
 あれは、背中がかゆいから、かいてと、家族から頼まれて。
 「あー、そこそこ。気持ちいいちゃ」。
 言われて嬉しくなり、爪を立て、力を入れると。
 「あいたたっ。そんなに、せられんな」。
 せっかく褒められたのに、図に乗っての逆効果でした。
 見ると、背中に、真っ赤な爪の跡。どおりで、怒られたわけ。
 それからは、あまり力を入れないよう気をつけてましたっけ。
 部屋の隅には、どこかで買って来た、竹製の孫の手。
 でも、我が家では、どうやら、温かみのある、子供の手の方が、良かったようです。
 温かいのなら、違うものだって。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、心の中が、ポカポカ温かく、優しい気分に。



No.32(303) 「セメント」   2013(平成25)年2月23日
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 「始めるさかい、こっち来られ」。
 あれは、裏のコンクリートの穴を、家族で、埋めようとした時のこと。
 まず、準備してあったトタンの上で、砂と砂利を混ぜ合わせ。
 セメントを、その上から追加し、水を入れながら、またスコップで、まぜこぜです。
 すると、どうしてだか、すぐに熱くなりはじめ、びっくり。
 そのセメント、底にちょっと大きめの石を敷いた、穴の中へ。
 仕上げで、表面のデコボコをならすのが難しく、結局、少々のことは、やむなしと結論。
 穴の周辺には、間違って踏まないよう、目印の赤い布を。
 スコップに、こびりついたセメントが固まり、こすっても、とうとう、取れずじまいでした。
 取れないことは、ないかも知れません。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、心に潜んでいたモヤモヤが取れ、身も心も、すっきり、さわやか気分。



No.31(302) 「海外旅行」   2013(平成25)年2月22日
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 「これ、ハワイのチョコレートやと」。 どこからか、お土産にもらった、チョコレート。
 食べると、外国の味が、口の中いっぱいに広がりました。
 箱には、英語で何か書いて。もちろん、読めるはずがなく、ちんぷんかんぷん。
 箱に印刷された写真を眺めながら、せめて一度は、外国へなどと。
 あれは、1ドル360円だった時代。あの頃、海外旅行なんて、夢のまた夢だったものです。
 友達が持っていた、航空会社のマーク入りショルダーバック。材質は、確か、ビニール製。
 そのショルダーバックが、欲しくて欲しくて。でも、結局。
 もらったチョコレートの空き箱、大事にとってましたっけ。
 でも、あれって、そんなに、大事にする必要が。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、何が大事で、何が大事でないものか、よく見えてくるような。



No.30(301) 「サツマイモ畑」   2013(平成25)年2月21日
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 あれは、稲刈りが、終わってからのこと。
 連れられて、山の高台にあった、サツマイモ畑へ。
 山道を登り、着いたのが、明るく開けた場所。
 どこかの家族は、もう、仕事の真っ最中でした。
 サツマイモを掘ってると、目の前に赤トンボ。額の汗を、手でぬぐい、見上げたら、真っ青な空に白い雲。涼しい風が、どこからか、そよそよと。
 仕事が一段落し、家族揃って、のお昼は、笹で包んだおにぎり。
 汚れた手を、ズボンでこすって、そのままガブッ。それが、またおいしくて。
 帰る時、「忘れ物したら、取りに来られんがやから、よう見られ」って。なのに、やって、しまいました。
 言われたのに、忘れるなんて、論外。でも、「ボランティア」やれば、忘れてしまった、優しくて純真な心を、思い出すかも。



No.29(300) 「タイル」   2013(平成25)年2月20日
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 「ちょっと、手つだお」。 声がしたのは、台所の方。
 そこには、紐のぶらさがった、小さな裸電球が一つ。
 いつも薄暗くて、なんだか。
 廊下から一段さがるようになっており、そこから少し下り坂。
 洗い場のコンクリートには、タイルが張ってありました。
 見ると、水道の蛇口から、水がポタッポタッ。
 横には、棚があり、ビンに入った調味料や、コップなどが、雑然と。
 朝、つま先立ちになり、顔を洗うのも、同じ場所。だから、歯ブラシや歯磨き粉も、同じ棚。
 食器などを、洗うための亀の子タワシと、石けんは、すぐ目の前にありました。
 そうそう。台所には、いつも、白い手拭いが、二本かかって。
 ついた汚れは、すぐにとった方がいいようです。そう、「ボランティア」。やれば、心についてた汚れも、きっと、どこかへ。



No.28(299) 「帽子」   2013(平成25)年2月19日
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 買ってもらったばかりの、野球帽。
 あれは、大好きな、チームのもので、マークも同じ。
 かぶれば、まるで、大選手になったような気分。
 でも、あの帽子は、ちょっと大きめ。
 風で飛んでいかないよう、白い、あご紐がついてました。
 ところが、遊び回っていると、帽子がずれて、首の後ろの方へ。
 「ちょっと、待と。ちゃんと、かぶらんと」。
 引っ張って直してもらい、すぐ向こうの方へ。
 走り出した途端、石につまずきバタッ。ぶつけた膝をさすりながら、家族の方を見ると。
 「痛ない、痛ない」。
 涙を、ぐっと我慢し、足を引きずりながら、一歩前へ。
 あまり、我慢しすぎるのは、どうかと。でも、「ボランティア」なら、きっと我慢せず、いつも素直な心で、やれるはず。



No.27(298) 「エスカレーター」   2013(平成25)年2月18日
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 「おっかなないちゃ。はよ、乗られ」。
 言われても、いつ足を踏み出していいか分からず、そこに立ちすくむだけ。
 あれは、家族と、遠くのデパートへ出かけた時のことです。
 エレベーターに乗るのは、生まれて初めての経験。
 動いている階段を見ながら、足を出したり、引っ込めたり。
 意を決し、右足をエレベーターに。すると、足下がグラッ。
 慌てて、両手で手すりを掴むと、体がすーっと上へ。あっという間に、2階でした。
 なんだか面白くなり、家族の手を引いて、「また、乗ろ乗ろ」。
 次は、乗りながら、後ろを振り向き、おしゃべりする余裕も。
 あんなに怖かったのが、まるで嘘のようです。
 おっと。どんなことがあっても、嘘はいけません。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、嘘とは無縁の、清々しい世界が。



No.26(297) 「満月」   2013(平成25)年2月17日
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 「こっち、来られ」。
 夕食が済んで、寝間着に着替えた後のこと。
 玄関先で、「あれ」と、指さされたのが、遠くの山の方。
 そこには、きれいな満月。
 どおりで、今夜は明るいな、と思ってました。
 家族と、並んで、空を見上げながら、「うさぎさんちゃ、どこにおるが」って。
 「ほら。あこに、おるねか」。
 黒い部分を指して、教えてくれましたっけ。
 よく見ると、あちこちに、星もキラキラと。その日のお月様は、いつもより、大きかったような気が。
 下を見ると、自分の影が、とても大きく映ってました。
 その夜は、なんだか、少し得したような気分。
 損得ばかり考えるようでは、いささか。でも、「ボランティア」やれば、きっと、損得抜きで、得られるものが、たくさん。



No.25(296) 「三つ編み」   2013(平成25)年2月16日
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 前の席、同級生の女の子。今日は、長い髪を三つ編みに。
 三つ編みの先には、紺色のリボン。
 何だか気になり、つい、手を伸ばし、グイっと。
 振り向きながら、「何するが」と、怒った顔で。
 あの頃、女の子は、ほとんどがおかっぱ頭。男の子は、もちろん、全員坊主頭でした。
 女の子の中には、髪が長く、腰の方まで伸びていた子も。風が吹くと、その髪が、サラサラ揺れて。
 それを見て、坊主頭は、羨ましく感じていたのかも知れません。
 あれは、おしゃれなんて、無縁な時代。何も考えず、家族から、ただ言われ通りにしていただけです。
 少しぐらいは、自分で考えねば。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、考えた以上に、大きな収穫が、待ちかまえて。






本波 隆(ほんなみ たかし)

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