「新おすそわけ」

本波 隆(ほんなみ たかし)が、2013(平成25)年1月23日から、このページのため、新たに書いたコラムです。さて、いつまで続くか。。。。


No.12(283) 「縁側」   2013(平成25)年2月3日
_
 「あれー、虫に喰われて、穴あいとる」。春の衣類を出していた、家族の声。
 きちんと、防虫剤を入れ、しまったはずなのに、どうしてだか、小さな穴。
 まずは、針箱の中から、生地とよく似た色の、糸探し。
 針に糸を通すのは、子供の役目。頼まれ、自慢げに「通ったよ」って。
 つくろうのは、白い割烹着姿の家族。一針一針ずつ、丁寧に縫っているのを、側に座って、見ていたもの。
 「直したさかい、ちょっと着て」、と言われ、袖を通すと、穴は、すっかり目立たなくなっていました。
 それを着て、縁側に行くと、ポカポカ日差しが暖かく、春の気配。あれは、もうすぐ、冬服を脱ぐ時だったようです。
 特に、替える必要はなし。「ボランティア」、他人を思いやる、ほんの少しの優しささえあれば。



No.11(282) 「カフスボタン」   2013(平成25)年2月2日
_
 スーツから白いワイシャツの袖口が、一センチ程。 そこには、カフスボタンが、キラッと映えて、ちょっとおしゃれな感じ。
 あれは、きれいな化粧箱に入り、ネクタイピンと、セットになったものでした。
 装飾が施されたものや、宝石の使われているものなど様々。でも、いい物に限って、使うのは、特別の時だけ。
 ワイシャツの袖口を見ると、今でも、カフスボタン用の穴。 もう、めったに使うことはありませんが、いざという時のためには必要かも。
 スーツに着替えると、外見はバッチリ。鏡を見て、「うん、うん」と自分だけで納得。
 内容がない私などは、せめて外見だけでも、きちんとしたいもの。それが、なかなか。
 きちんと出来なくても、それはそれで良し。「ボランティア」。やれば、心がきっと伝わるはず。



No.10(281) 「お年玉」   2013(平成25)年2月1日
_
 元旦に、「ここへ、来られー」と大きな声。
 肩まで、もぐっていた、炭火のこたつから出て、呼ばれた部屋へ。
 行くと、小さな座卓の正面に、難しい顔をした親が。
 兄弟、いつもと違う様子に、なんだか緊張しながら、並んで正座です。
 家族から、「おめでとう。今年は、勉強、もっとがんばらんと、駄目やぞ」と、厳しい言葉。
 当たっているだけに、うつむいて、ただ聞いていただけ。
 それが終わり、一人ずつ手渡されたのが、お年玉。もらって、隣に座っている兄弟と、顔を見合わせ、ニコッ。
 小さな袋の中には、小銭が何個か。頭の中は、勉強のことなんて、すっかり忘れ、何に使うか、そのことでいっぱいでした。
 もしかすると、忘れられない思い出が。やってみますか、自分に挑戦、「ボランティア」。



No.9(280) 「あかぎれ」   2013(平成25)年1月31日
_
 台所から「あ〜、つべたぃ」の声。
 見ると、両手に「ふーっ」と、暖かい息を吹きかけている、家族の姿。
 あれは、食事をした後、茶碗洗いの途中でした。
 給湯器で、お湯を使えるようになったのは、随分経ってから。
 あの頃は、洗濯だって、冷たい水を使い、たらいでゴシゴシやっていたものです。
 そのせいか、家族の手の甲は、ひび割れて、あかぎれ。手の甲の、ところどころに血がにじみ、とてもつらそうでした。
 時々、戸棚の奥から軟こうを取り出し、手にぬっていた姿を覚えています。
 冬は寒くて、水は冷たいのが当たり前。だから、寒いなどと口に出さず、黙々と家事を行っていたのでしょう。
 それに引き換え、今は。
 ガマンするのは、つらいもの。でも、「ボランティア」なら、きっとガマンより、わくわくが。



No.8(279) 「信号機」   2013(平成25)年1月30日
_
 電車に乗って、大きな街へ出かけた時のこと。
 初めて目にした信号機。
 あの頃、住んでいたところには、もちろん、信号機なんて。
 学校で教えてもらったように、青になってから、まず、右左確認です。
 次に、右手を大きく上に伸ばし、横断開始。急いで渡り終えたら、なんだかホッ。
 その後、しばらくしてから押しボタン式信号機が。あのボタンを押したくて、競争したことが何度も。
 不思議なことに、急いでいる時ほど、信号が、赤から青に変わる時間、長く感じます。
 見てると、黄色に変わってから、横断を始める人の姿が。
 あらあら、いけません。決まりは、きちんと守らねば。
 言われた通りにするだけなら、簡単。でも、「ボランティア」、やれば、時々悩むことが。実は、それが、案外おもしろいかも。



No.7(278) 「蒸しパン」   2013(平成25)年1月29日
_
 玄関先、ランドセルを下ろしながら、「おやつ、ある〜」。
 すぐ、奥の方から大きな声で、「手、洗ってこ」。
 水道の蛇口をひねり、指先を簡単に濡らしただけで、洗ったふり。
 両手を差し出して受け取ったのは、白くて三角の形をした、ふわふわの蒸しパンです。
 口を大きく開け、ガブッ。ところが、パンの底にあった、薄い紙も一緒に食べてしまい、ペッペッ。
 しばらくすると、ほのかな甘さが、口の中いっぱいに。あっという間に、笑顔です。
 小さな望み。あの頃、せめて一度だけでも、お腹がはち切れるほど、蒸しパンを食べてみたいと思ったもの。
 一度なんて遠慮せず、十回、いやいや百回、千回だって。そう、「ボランティア」、やればやるほど、優しい笑顔が広がって。



No.6(277) 「案山子(かかし)」   2013(平成25)年1月28日
_
 顔は、墨で「へのへのもへじ」。
 着ているのは、ボロボロに使い古した農作業着。腰ひもは、わら縄で、代用です。
 頭には、穴だらけの、編み笠。伸ばした腕の先には、茶色く変色した軍手が下がってました。
 田んぼに、傾きながら立っていたのは、稲穂を小鳥などから守るための、案山子(かかし)。
 でも、時々、腕の先に雀が留まり、チュンチュンと。
 今、田んぼへ出ても、案山子(かかし)を見かけることは、ほとんどなくなりました。
 昔は、どこの田んぼでも、いろいろな姿かたちで、にらみを効かせて。
 身近な物を再利用する知恵、今より、昔の人たちの方が、持っていたかも知れません。
 いえいえ。今だって、自慢できることが。そう、「ボランティア」をやる人、急増中。地域には、笑顔の稲穂が、たわわに。



No.5(276) 「天気雨」   2013(平成25)年1月27日
_
 お日様が出ているのに、どうしてだか雨がパラパラと。
 慌てて、近くの軒先を借り、雨宿りです。
 あの時、一緒にいた家族から、「ちゃ、天気雨って言うがよ」と教わりましたっけ。
 雨は、すぐ止んだのですが、おしゃべりに夢中で、軒先から出たのは、しばらく経ってから。
 出て、見上げた空は、真っ青。
 時には、突然のにわか雨で、ビショビショになることも。
 どうしてだか、傘を持っていかない時に限って、雨に降られたような気がします。
 「ださかい、傘持ってけって、言うたがに」と叱られても、すぐ右から左へ。
 どうやら、年配者から言われたことは、素直に聞いた方が、無難なようです。
 聞くのと、体験するのでは大違い。でも、「ボランティア」。やれば、きっと、心のどこかに、素敵な虹が見えてくるような。



No.4(275) 「ホタル」   2013(平成25)年1月26日
_
 あれは、夕ご飯を食べてからのこと。
 浴衣を着せてもらい、手にうちわ。
 玄関へ行くと、もう、子供用の下駄が、準備してありました。
 家族で出かけたのは、裏の小川。行くと、そこには、淡い光が、点いたり消えたり。
 なんだか嬉しくなり、家族の顔を見上げ「きれいやね」。
 草むらへ手を伸ばし、そーっと、両手で包むと、小さな光が手の中に。
 指の隙間から覗くと、暗い中に点滅している光。そして、ホタルの姿も、はっきり。
 見てると、家族から「可愛そうやから、逃がしたろ」って。
 言われて、両手をパッと広げると、光が、ゆっくり舞いながら、向こうの方に。
 消えることは、ないはずです。そう、「ボランティア」。やれば、きっと、爽やかな思い出が、いつまでも、心の中に。



No.3(274) 「鳥の巣」   2013(平成25)年1月25日
_
 あれは、いたずら盛りだった頃。近所の友達に「山へ、鳥の巣、見に行かん」と誘われ、二つ返事で。
 山の麓に着き、息を切らしながら斜面を登っていくと、そこには、ちょっと大きな木。
 木を登るのは、お手のもので、枝をつかみながら、すいすい。
 目に入ったのは、横に伸びた枝のところにある、鳥の巣です。
 巣には、何本かの白い産毛と、真ん中に、小さな卵。
 卵に、手を伸ばしかけたところで、急に、バタバタと羽の音。下にいた友達が、大きな声で「親鳥、きたぞ」って。
 恐くなり、急いで下へ飛び降り、「もう、やめよう」。
 帰る時、親鳥が、追いかけるように、頭の上を飛んでました。
 いけませんね、心配させるようなことをしては。
 心配ご無用。「ボランティア」、やれば、きっと、他人の心の痛みが分かる、そんな優しい人に。



No.2(273) 「編み笠」   2013(平成25)年1月24日
_
 家の中で遊んでいたら「行くぞー」の声。また、嫌々ながらの、お手伝い。
 今日は、田んぼの草取りだとか。外へ出て見上げると、なんだか、雨が降ってきそうな空。
 家族が、納屋の棚に置いてあった竹製の腰カゴと、笠を持ち、揃って裏の田んぼへ。
 ところが、三十分ほどしてから、雨がポツリポツリ。しまいに、ザーッと本降り。
 「降ってきたからいいちゃ、あんたら帰られ」。その時は、手伝いをしなくていいのが、ただ嬉しくて。
 走りながら振り返ると、残った家族が、笠の端に手をかけ、こちらの方を見てました。
 その後、また腰をかがめて、雨の中を黙々と。それを見て、なんだか、悪いことをしたような気持ちに。
 悪いことなど、ないはずです。「ボランティア」、やれば、きっと、心に澄み切った青空が。



No.1(272) 「ハンカチ」   2013(平成25)年1月23日
_
 玄関を出たところで、「忘れたらだめやよー」って。
 言われて、ポケットの中に手を入れると、案の定。
 準備してあった真っ白のハンカチは、居間に置いたまま。慌てて手に取り、履いてた半ズボンのポケットへ。
 あの頃、ハンカチは白。柄のあるハンカチを持つようになったのは、大きくなってからです。
 何かでもらった、箱入りのハンカチ。隅の方には、英語の文字入り。あれは、ちょっと高価なものだったか。
 家には、何枚もあるのに、使うのは、同じものばかり。どうしてだか、好き嫌いが。
 汚れが一番目立つのは、昔ながらの白色のハンカチです。その点、柄は目立たないので、いいのやら悪いのやら。
 そんなに目立つことは、ないかも知れません。でも、「ボランティア」、やれば、きっと、心の汚れがとれて、気分は爽快。






本波 隆(ほんなみ たかし)

前のページに戻ります
トップページに行きます