『おすそわけ』

本波 隆(ほんなみ たかし)が、1993(平成5)年〜2011(平成23)年まで、情報誌に書いたコラムを、ご紹介します。。。。




No.191 「カバン」   2004(平成16)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 今使っているカバン、随分古くなってきました。あのカバンを買ったのは、確か八年ほど前。ですから、随分長い間使ったことに。
 安い合成のカバンなのですが、一見すると革製。でも、近くで見れば、すぐにばれてしまいます。
 カバンも、高い物から安い物まで様々。中には、本物そっくりな偽物のカバンまで。
 習い事は、先生や先輩の動きを、そのまま真似することから始まる、と耳にしたことがあります。
 最初は真似でも、それが基礎となり、しっかり自分のものになっていくのでしょう。
 誰かの真似でも悪くありません。まずは、形から入ってみましょうか。そう、ボランティア。後から、きっと心がついてくるような。



No.190 「天眼鏡」   2004(平成16)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 昔のメガネ、形は丸に決まっていました。縁の色も、だいたい同じ。ところが、今は、いろんな形に、いろんな色が。
 メガネは、随分おしゃれになって来ているようです。
 新聞を読むとき、手にはしっかり天眼鏡。細かな字を見るとき、あの天眼鏡が必需品でした。
 今は、遠近両用メガネや、安い既製品の老眼鏡も出回っているようです。
 ですから、以前のように、家で天眼鏡を目にすることは、ほとんどなくなりました。
 ボランティア。やっている人の心の中を、天眼鏡で覗くと、思いやりの四文字が、はっきり見えてくるかも。



No.189 「キセル」   2004(平成16)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 煙草を吸う人にとっては、最近、肩身の狭い思いをすることが多くなってきたようです。
 そうそう、きざみ煙草をキセルで一服。なんていう姿は、すっかり見かけなくなってしまいました。
 火鉢の炭火に、キセルの火ざらの部分を近づけて、きざみ煙草に火をつけます。ゆっくり吸い込んでから、「ふーっ」と口から白い煙。
 吸い終わると、キセルをポンとたたいて、吸い殻を下へ。最後に、吸い口から、フッと息吹いていましたっけ。
 決まりがあれば、守らなければなりません。喫煙で、場所が決まっているのなら、そこへ行って思う存分。



No.188 「かいもち(おはぎ)」   2004(平成16)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 何か特別なことがある日は、家で作ったかいもち。使っていたあずきは、もちろん自家製です。それを天日で干し、しっかり乾燥。
 虫が食ったものや傷んだものは、日当たりのいい場所などで、丁寧に一粒ずつより分けていました。
 なので、かいもちに使っていたのは、いいあずきばかり。
 餅米に、普通の米を混ぜて炊きあげます。混ぜる割合は、その家によって違っていたようですが、炊きあがるまでの時間はそれほどでも。
 かいもちを作る手伝いで、指についたあんこをなめるのが楽しみでした。子どもたちは、親の目を盗んで、そーっと指をペロペロ。
 あの時は、家族総出で作っていたので、余計おいしく感じたのでしょう。
 出来合いを買ってくるのも悪くありません。でも、たまには、家族で作ってみるのも。



No.186 「赤チン」   2004(平成16)年9月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 長時間、はき慣れない靴を履いたせいか、足の指に豆が。そのまま履いていたら、とうとうつぶれ、歩くたびに傷口と靴が擦れて、それは痛くて痛くて。
 昔だと、そんな時は赤チンの出番。家の薬箱には、必ず赤チンが入っていました。
 不思議なもので、あの赤チンを傷口に塗ると、もう治ったような気がしたものです。
 赤チンは、まるで万能薬のようなもの。
 どこかへ、置いてきたような気がする、思いやりの心。探す出すにはボランティア。やれば、きっと、赤チンより効き目が。



No.185 「合羽(かっぱ)」   2004(平成16)年9月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 合羽と言えば、黒くて重いゴム製。あの合羽、防水は効きましたが、着ていると内側が汗でびっしょり。
 ビニール製の合羽が出回り始めたのは、しばらく経ってからのような気がします。
 今は、雨を通さず、汗をかいても蒸れない雨具が出ているとか。色も、赤や青など、カラフルなこと、この上なし。
 そうそう、昔、家にあったわら製のばんどりだって、なかなかのものでした。
 昔の人は、物が無ければ自分で作ったもの。汗をかき、苦労して作った物ですから、余計大事にしていたのでしょう。
 そう、もったいない、もったいないって。



No.184 「背板(せいた)」   2004(平成16)年9月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 山へ行く時、背負っていたのが背板。骨組みは木で、背中のところに縄が巻いてあり、肩ひもには、赤い布などが縫い込んでありました。
 背板を使うと、背負った荷物が背中にぶつかりません。だから、山の木などを運ぶのに便利。
 ところが、荷物が重くなると、立ち上がるのに一苦労。後ろから支えてもらい、「よっこらしょ」。左右のバランスをとるのが、また大変でした。
 大人は、体が隠れるぐらいの荷物を背負ったもの。子どもだって、手ぶらで帰ることなんてありませんでした。
 考えてみると、昔は、よく汗をかいたものです。そして、汗をかいた後は、何ともいえないいい気分。
 いけません。最近、なんだか体を動かすこと、避けているようです。今度、思いっきり、汗をかいてみるのも。



No.183 「風呂桶」   2004(平成16)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 家にあった、昔の風呂場。照明用の電球などはなく、いつも薄暗かった覚えがあります。
 もちろん、燃料は薪。夕方、風呂を沸かすのは子どもたちの役割でした。
 風呂桶は木製で、底は鉄製の釜。もし、足が、直に釜の底へ触ると、大変なことに。
 でも、風呂桶の大きさにあわせた板が、湯船の中にあり、その上へ足を乗せて入れば大丈夫。
 桶の縁につかまって、体を浮かせて遊ぶのが大好きでした。
 風呂場には、洗い場などなく、家族全員が湯船の中で、体をゴシゴシ。今考えると、決して、衛生的ではなかったような気がします。
 体を温めるには、お風呂が一番。ボランティア、やれば、きっと、心の中が、ほんわかほんわか温かく。



No.182 「弁当箱」   2004(平成16)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 最近の弁当箱は、プラスチック製が多いようです。色やデザインも様々。弁当箱は、四角い形だと思い込んでいたのですが、それは、もう時代遅れ。
 昔の弁当箱の中には、ご飯がびっしり。それを、残さず食べても、午後三時を過ぎれば、もうお腹が空いてきたものです。
 あの頃、おかずに卵焼きなどが入っていれば、それはすごいごちそう。弁当のフタを開けた途端、思わずニッコリ。
 おいしいものは、どうやら、人を幸せにしてくれるようです。
 ボランティア、やれば、どこかで、小さな幸せに出会えるかも。



No.181 「五寸釘」   2004(平成16)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 子どもの頃、地面に釘をさす遊びがありました。釘を地面にさして線を引き、相手より広い地面をとったら勝ち。あれは、地面取りと言ってましたっけ。
 ただ釘をさすだけなのですが、それが面白くて。
 五寸釘のような、長い釘が欲しくてたまりませんでした。いい釘が手に入ると、地面にささりやすいよう先の方をつぶし、一生懸命磨いたものです。
 あの頃、遊び道具は、身近にあるものを利用。時間の経つのも忘れて、夢中で作りました。
 お金を出して手に入れるのも、悪くありません。でも、いつまでも心に残るのは、夢中になって磨いていた、あの五寸釘。



No.180 「かがり」   2004(平成16)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 田んぼや畑へ出かけるときに背負っていたのは、縄で編んだかがり。ちょっとなまって、かがると呼んでいる人が多かったようです。
 あのかがりは、もちろん手作り。縄ではなく、わらを作った、いこというのもありました。丈夫さの点では、かがりの方が上。
 かがりは、大人用から子ども専用のものまで、何種類も。あの中には、弁当やいっぷく用の物など、何でも入れていました。荷物が重くて立ち上がる時には、大きな声で、「どっこいしょ」。
 今は、ビニール紐で編んだかがりが主流。色も鮮やかで、作った人のセンスが伝わってきます。
 物は、大切に、とよく言われたものです。最近は、値段の安い物が多く、つい使い捨て。
 心を込めて作った人のことを考えると、なんでも大切に使わねば。



No.179 「ツバメ」   2004(平成16)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 朝、布団の中から出るのに、ヨイショッと思い切らなくても、よくなってきました。
 あんなに冷たかった水道の水も、それほどには感じなくなっています。春の足音は、すぐ近くまで聞こえてきているようです。
 そう、もうしばらくすると、ツバメの姿も。ツバメは、南の国から、遠い遠い旅をしてやって来ます。
 今年も、いつもの巣を忘れず、無事に着いてくれればいいのですが。
 でも、あのツバメは、どうして、あそこに巣を作ろうと決めたのでしょう。やはり、不思議な縁って、あるのかも知れません。
 新しい出会いが、きっとあるはず。そう、ボランティア、やれば、そこから何かが始まるかも。



No.178 「寄り道」   2004(平成16)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 自転車で、どこかへお出かけ。車に乗って行くのとは、随分違います。
 一番は、風を切る感覚が、あるのと、ないのとの違いのような気がします。
 それに、自転車だと、どんな狭い道でも、すいすいと。
 自転車に乗っていると、いろんなものが見えてきます。気になるものを見つければ、寄り道だって簡単に。
 それに、自転車でしたら、汗をかいても、気分はさわやか。体を動かすのは、精神的にもいいようです。
 人生、時には寄り道だって必要かも。ボランティアでいい汗かけば、心にも、きっと春が。



No.177 「ゲタ」   2004(平成16)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 足下は、黒い鼻緒の桐のゲタ。歯の長い、足駄を履いている若い人もいましたっけ。
 ゲタで歩くと、カランコロンと、いい音が響いていたものです。でも、今は、特別なことがないと、履かなくなってしまいました。
 ゲタを履いていると、歯がすり減ってきます。しまいには、ほとんど歯がなくなるまで。
 あれだけ履き続ければ、ゲタも、きっと喜んでくれたはずです。
 少し暖かくなってきましたから、散歩するにはいい季節。スニーカーや靴もいいのですが、たまには素足にゲタだって。
 今度、靴箱へ、しまったままになっているゲタを取り出し、ちょっと出かけてみるのも。



No.176 「ふきのとう」   2004(平成16)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 日影には、まだ雪が残る川の側。枝の先には、ビロードのような、ねこやなぎが。あのふわふわとした手触りが、何ともいえません。
 さわっているだけならいいのですが、思わず手で枝をポキッ。折った枝は、グルグル振り回し、家へ帰る途中、どこかへポイッ。
 今は、あちこちから、ふきのとうも芽を出しています。摘んできたふきのとうを口にすると、なんだか春の味。
 あれは、きっと、厳しい冬を乗り越え、太陽と水の恵みが、いっぱい詰まっている味。
 考えてみれば、春になり、やっと芽が出てきたのに、かわいそうなことをしているような。自然は、自然のままにしておくのが、一番なのでしょうから。
 せめて、食べる時には、感謝の心を忘れたくないもの。そう、両手を合わせて「いただきます」。






本波 隆(ほんなみ たかし)

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