『おすそわけ』

本波 隆(ほんなみ たかし)が、1993(平成5)年〜2011(平成23)年まで、情報誌に書いたコラムを、ご紹介します。。。。




No.111 「こたつ」   1999(平成11)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 寒くなってくると、暖房器具を使います。今は、石油ストーブや電気カーペット、電気こたつなどが多いようです。
 昔は、炭を使った、こたつか火鉢に決まっていました。そうそう、炭俵もありましたっけ。炭俵から、使う分だけ箱に移し、こたつや火鉢のある場所へ持っていきます。
 火ばしで炭をつかみ、こたつの中へ。すると、パチパチッとはじけ、火の粉が手に。
 寒くなると、こたつの中に、首まで入ったものです。しまいには、頭までこたつの中に入れ、「何しとるが」って、叱られたことも。
 朝起きると、こたつの中には、もう火が入っていました。
 炭のこたつと、電気ごたつでは、どこか違った暖かさがあったような気がします。もしかすると、あれは、家族のぬくもりだったのかも知れません。
 暖房があれば、体は暖まります。心を温められるもの、何かあればいいですね。そう、ボランティアなら、きっと。



No.110 「修正液」   1999(平成11)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 間違った文字を直すのに、修正液を使うことがあります。以前は、消しゴムの中に、細かな砂の入った、砂消しを使っていました。
 でも、あれは少々乱暴な消しゴム。何せ、ゴシゴシと砂で紙を削り取ってしまうのですから。
 砂消しを使った後は、紙の表面がざらざらになり、どうしてだかすぐ汚れてしまいました。
 心の奥にある汚れたものを、簡単に消せる修正液があればいいのですが。そう、ボランティア。やれば、心の中がきれいになるかも。



No.109 「冬のタイヤ」   1999(平成11)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 そろそろ雪の降る時期が近づいてきました。タイヤも、冬用のものに交換しなければなりません。
 昔は、たくさんの雪が積もっていました。今と違って、道路に消雪装置なんてなかった時代。人の歩くところだけが踏み固められ、道がついていたものです。
 冬用のタイヤをつけていても、ヒヤッとすることがあります。タイヤを交換したから安全だと、勘違いをしているからなのでしょう。
 便利なものを使っていても、すぐに慣れてしまいます。ありがたく感じるのは、最初のころだけで、しばらく使っていると当たり前に。
 失ってから、後で、すごいことだったと気がつきます。普通というのは、実は特別なこと。そんなこと、言われなくても分かっていたつもりなのに、すっかり。



No.108 「おでん」   1999(平成11)年12月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 アツアツの鍋が、おいしい季節になってきました。具が少ないと、それほどでもないのに、たくさん入ると、味に深みが増すようです。
 鍋にも、いろいろな種類があります。その中でも、おでんは、誰にでも人気があるものの一つかも。
 家で食べる鍋は、よそのところのものに比べると、どこか味が違うようです。同じような物が中に入っているのに、どうしてなのでしょう。でも、もちろん、家で作ったのが一番。
 湯気の上がっている、あったかい鍋と賑やかな声。おまけに、作った人の優しい心が詰まった料理。だから、おいしいのは当然でしょう。
 食卓へ料理が並ぶまでには、自然の恵みと、大勢の人の手がかかっています。尊い汗が、たっぷりと染みこんだ料理、心して口にせねば。



No.107 「お重」   1999(平成11)年9月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 運動会の楽しみは、お昼の時間でした。昼食時間になると、家族が陣取っている場所へ走っていきます。
 朝から準備してあったお重の中は、料理でいっぱい。手作りのいなりずしや巻きずしは、最高のごちそう。かまぼこや煮物、卵焼きなども重箱の中に入っていました。
 そうそう、大きなポットも、わざわざ持参。家で、大切にしてた、湯飲みも持っていきましたっけ。
 家族にとって、運動会は、お祭りと同じように大切な年中行事の一つ。それは、昔から変わらなかったようです。
 隣や前に座っている人と、気軽に声をかけあうのも楽しみでした。どこを見ても、みんな知っている人たちばかり。地域が一体となっていることを、感じられる場だったものです。
 地域のことは地域で。それは、昔も今も同じはず。それなら、地域できるボランティア、やってみるのも。



No.106 「赤とんぼ」   1999(平成11)年9月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 実った稲穂の上を、赤とんぼが、あちこち飛び回っています。どうやら、赤とんぼも豊作を祝ってくれているようです。
 コシヒカリの収穫が、いよいよ近づいて来ました。聞くところによると、今年は豊作だとか。新米を口にするのが、今から楽しみです。
 心を込めてお世話をすると、自然もそれに応えてくれるのかも知れません。あれだけ手間暇かけてきたのですから、お米が、どうか一粒でも多くとれますように。
 ボランティア、手間暇かけてもかけなくても、試しにやってみる価値はあるような。



No.105 「台風」   1999(平成11)年9月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 春分の日から数えて二百十日、九月一日前後は台風に気をつけねばと聞いています。
 昔は、雲の動きなどを見て、台風が近づいて来たことを知ったものです。そう言えば、山にかかる雲を見ただけで、何時間後に雨が降ってくるかを、言い当てる人もいました。
 今は、天気予報を見たり聞いたりするだけでこれから、どんな天気になるのかが、だいたい予想できます。とても便利で、いい時代に。
 でも、便利になりすぎて、昔から伝えられてきた知恵と知識を、忘れてしまったかも。
 便利さには、表と裏があるようです。このあたりで、一度、先人の知恵を思い起こす必要があるのかも知れません。
 そうそう、台風に限らず、災害への備えは、日ごろから忘れずに。



No.104 「運動会」   1999(平成11)年9月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 学校のグランドから、賑やかな音楽が聞こえてくるようになりました。音楽に合わせ、手足を揃えて運動会入退場行進の練習です。練習は、何度も何度も。
 ところが、どうしても合わない人が出てきます。中には、手を足が同時に出る人も。
 緊張すると、余計変になってしまいます。誰かに指摘されると、頭の中が真っ白。自分で変だと思っていても、手と足が言うことをきいてくれません。
 これから先、どうなることかと思っていたのに、練習するたび、上手になっていきます。やった分だけ揃ってきたのでしょう。
 小さな努力も、重ねることで大きな形になります。最初からあきらめるなんて、もってのほか。まずは、足を一歩前へ出すことから。



No.103 「お風呂」   1999(平成11)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 お風呂で背中を流してもらったのは、いつ頃だったでしょうか。もう忘れるほど、前のことです。
 誰かに背中を洗ってもらうのは、気持ちのいいものです。汚れが、全部洗い流されるような気がしました。
 そうそう、もらい風呂というのもありました。夕方、近所の人から「風呂沸かしたがで、はいりに来られませんか」って。
 薪で沸かすお風呂は、また格別でした。パチパチと燃える音を聞きながら湯につかっていると、疲れが全部とれるような気がしたものです。
 あの当時、シャンプーなんてありませんでした。頭を洗うのも、体を洗うのも、同じ石鹸。
 お風呂を沸かすのだって、何日かに一度だけ。お風呂は、ごちそうだったものです。  疲れをとるには、お風呂が一番。さてと、ここらで気分を変えてボランティア。やれば、心の疲れがとれるかも。



No.102 「叱られて」   1999(平成11)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 「こら、何しとるが」と、よく叱られました。叱られた時は、頭にカーッと血がのぼり、自分が悪いと思っていても、つい言い訳を。
 分かっていながら、どうして素直に謝ることができなかったのでしょう。最初に謝ってしまえば、それで済んだのに。
 叱られるのは、誰にでもあることです。でも、二度と叱られないための努力をするかどうか、それが大切のようですね。
 ほめられなくても、叱られることは、まずないはずです。そう、素直な心でボランティア。



No.101 「いっぷく」   1999(平成11)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 十時と三時のお茶の時間は、楽しみなものです。おいしいお茶とお菓子があれば、なお最高。
 畑仕事で汗をかいた後の、いっぷくもいいものでした。木陰に「よっこらせ」と腰を下ろし、かがりの中から取り出すのは、飲み物とちょっとお腹のふくれるもの。
 今、缶やペットボトルが多くなりましたが、昔は一升瓶を利用していたものです。一升瓶に入れていたのは、もちろん普通の水。
 畑へ行く途中、清水がある時は、そこで冷たい水を一升瓶の中に入れていました。昔、よく汲んでいたあの清水、今でもあるのでしょうか。
 いっぷくすると、元気が出てきます。それなら、心だって同じかも知れません。そう、たまには、心のいっぷくも。



No.100 「写真」   1999(平成11)年6月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 捜し物をしている時、古いアルバムを見つけることがあります。手にすると、ちょっと見るつもりがついつい最後のページまで。写真の中には、懐かしい顔が、あちこちに。
 最近、音信のない知人の顔も、たくさん。みんな、元気にしていればいいのですが。
 何かの行事で親戚が集まると、記念写真を撮りました。そんな時は、自動シャッターの出番。ボタンを押し、自分の場所へ戻る途中、慌てて転んだことも。
 白黒からカラー写真に変わったのは、いつ頃からだったのでしょう。今は、白黒写真を目にすることが、ほとんどなくなってしまいました。
 にっこり笑顔や、すまし顔。どうせなら、写真の時だけではなく、普段から笑顔を心がけられれば。



No.99 「歌謡曲」   1999(平成11)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 懐かしい歌謡曲が、テレビやラジオから流れてくると、知らず知らずのうちに口ずさんでしまいます。
 今、流行している歌は、どうもいけません。頭の中に入っていかないのです。
 昔の歌を、改めて聴き直すと、ゆっくりとした調子で流れているのに気がつきます。
 今の時代には、少々のんびりし過ぎかも知れません。でも、あの頃は、とてもいい時代。
 今は、あまりにも忙しすぎるのでしょうか、音楽まで、何かに追われているようです。
 こんな時代だからこそ、そんなに慌てず、ちょっと一息入れてみたいものですね。そうすれば、違う何かが見えてくるかも。
 さてと、ここらで一息ついてボランティア。



No.98 「レコード盤」   1999(平成11)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 私たちが行っているサービスに使ってくださいと、たくさんのレコード盤が届けられています。どのレコード盤を見ても、大切に扱われていたことが分かるものばかり。
 レコードを聴くと、CDやカセットとは、何かが違うような気がします。
 「物は、大切にせんと」と、よく言われたのですが、まだ使えるのに、捨ててしまうことがちょくちょく。どうもいけません。
 大切なものって、いろいろあるようです。忘れてならないものに、助けあいとボランティア。



No.97 「友人」   1999(平成11)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 先日、二十年ぶりに古い友人と会ってきました。お互い、昔の面影があるのは、顔と声だけで、体型はすっかり。
 同じ釜の飯を食べた仲間。語り始めると、すぐ昔に戻りました。
 ひょんなことから知り合い、つきあいが始まって、もう二十八年になります。縁とは、不思議なもの。
 利害関係のない友人の方が、長くつきあえるようです。下心のあるつきあいだと、すぐ終わってしまいます。お互い、なんとなく、それが分かるからでしょうか。
 損得を考えると出来ないのに、こちらが考えている以上の気配りを、黙ってやってくれる友人とその家族。 その心の中がわかるだけに、胸が熱くなってきます。
 黙っていても、相手のことを思いやる。できるなら、そんな人になりたいものだと。



No.96 「おにぎり」   1999(平成11)年3月1日『宇奈月町社会福祉協議会だより』掲載
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 家族で旅行に出かけるなんて、昔はほとんどありませんでした。子どもの頃の旅行と言えば、修学旅行がせいぜい。
 小学校時代は、遠足。何年生の頃だったでしょうか、学校から歩いて愛本橋まで行き、河原でおにぎりを食べました。
 その後、役所の屋上へ上り、上の方から黒部川を見た覚えがあります。
 帰りは、地鉄の電車を利用。電車の中では座席に座れず、ドアの側に立ち、友だちと一緒に外の景色を見ていました。
 あんな時間をかけて歩いたのに、電車に乗ると、十分ほどで小学校のある駅へ到着。
 ほかのことは、すっかり忘れているのに、歩いた後のおにぎり、とてもおいしかったことを覚えています。汗を流すって、たまには必要なようで。






本波 隆(ほんなみ たかし)

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